わかっているのに変われないのは
どこかの国のオークションでルビーが39億円で落札されたらしい。
そんなに高価なものを手に入れてどうするのだろう。
家に置いて眺めるのか、身につけて自慢するのか。
どちらにしろ、月給20万ちょっとの私にはわからない話だ。
大学生の頃、バイトを転々とした。
一番長く続いたもので1年。
元々期限付きのものもあったけど、それ以外は全部、なんか辞めたくて辞めた。
それぞれ理由はあったけれど、一番大きかったのは、「家に居たかったから」。
本とインターネットさえあればよかったから、バイトをしなくても仕送りだけで生きていけた。
でも、周りがバイトをしているから、していないと就活に不利だと思って働いた。
卒業してから友達に「なんで欲しいものがないのにわざわざバイトしてるんだろうって思ってたよ」と言われ、「あぁ、みんなお金が必要だから働いていたのか。」と思った。私はなんて幸せな頭をしているのだろうと思った。
特段裕福だったわけではない。
普通のサラリーマンの家庭だ。
父親は、母親が働くのを嫌がった。
家族を養えるほど稼ぎがないと思われるのが嫌だったらしい。
だから、母親はずっと専業主婦だった。
家事や育児に一切手を出さない父親の悪口を四六時中言っていたから、多感な時期の私は、父親を悪い奴だと思っていた。
自分が働くようになって思ったけれど、今の社会で「家族は俺が養うから働くな」なんて言えるのは凄いことだし、土日は疲れているのだから寝てばかりいるのは仕方がない。むしろ、大した趣味もなく働き続けているのだ。すごい。私のボキャブラリーでは、それしか言えない。
だが、母親は外で働きたい人だったから、ずっと家の中にいて愚痴っぽくなってしまうのも仕方がなかったのかもしれない。
実際、私が高校生の時にパートで働くようになって、元気になった。
ほぼワーカーホリックの状態な父親と、働きたくてやっと働けた母親のお金を食いつぶすように私は大学生活を送った。
お金に困らせないようにしてくれた親に甘えきっていたし、今でももし仕事ができなくなっても実家に戻ればいいやなんて思っている。
正月も帰らないくせにこういう時だけ甘えている。
私が仕事をすぐ辞めちゃうのは、そんなにお金がなくても生きていけると思い込んでいるからだ。
親だってずっと生きているわけじゃない。
未来のことを思うと不安で不安で堪らなくなる。
不安から脱するためには変わらなければいけない。
こんなに鬱々とした状態になったのも勤務時間が長いとか仕事のせいにしているだけで、本当は自分の甘えた性格のせいだということをわかっている。
わかっているのに変えられないのは、なんでなんだろう。
好きなことを仕事にした私の末路
webデザイナーになって3年目。
近々、会社を辞めようと思っている。
元々大学では社会学をやっていて、学校などでweb制作の技術やデザインについて学んだことはなかった。
ただ、小学生のことから自分のサイトを作っていたから知識が多少あったし、何より自分はwebサイトを作ることが好きだと思っていた。
だから、学校で専門的な勉強をしたこともないのに、好きなことを仕事にできたと思って、嬉しくて、これからたくさん勉強しなきゃなと思った。そう、思ったのだ。
最初はよかった。
気力も体力もあったから。
できないことをできないと言ってしまうと、webデザイナーを辞めさせられると思って休日にJSを書いた。通勤時間に技術書を読んだ。仕事で活かせるように、休日にフォトショとかイラレを使った。
「できない」を隠すように「できる」が増えていった。
それと同時に、少し心と身体がおかしくなっていった。
相当、無理をしていたのだと思う。
好きなことを仕事にできたのだから、
平日も休日も関係なく、人生の全部を仕事にしなければいけないと思っていた。
だから、気が休まることが一切なかった。
きっと、「しなければいけない」と思っている時点で、
私は好きなことを仕事にするのに向いていない人間だったんだと思う。
もしくは、それほどwebサイトを作るのが好きじゃなかったのかもしれない。
趣味で自由に作っている分にはよかった。
作りたくない時は作らなくていい。
でも、仕事にするとそんなことは言ってられない。
毎日、作る。
制作会社だから、いろんな会社の、いろんなページを作る。
カスカスの引き出しから捻出された自分のデザインに自信を持てなかった。
なにより、毎日21時まで何かを作るという生活を続けることに限界を感じた。
好きは魔法じゃない。
好きなんだから、毎日12時間以上働けるかと言えば、
元々体力のない人間には無理だ。
魔法じゃないから、体力まで強化してはくれない。
疲れると、気力もなくなる。
次第に休日は睡眠で消化されるようになった。
作ることから逃げるように、私は布団の中でじっと目をつぶって、眠りに入るのを待っていた。
勉強しない自分にストレスを感じる。それでも寝てしまう。ストレスの無限ループ。
うちの会社は、デザインとコーディングが完全に分業していた。
私は中途半端にどちらでもできた。(できるふりをして、休日にできるようにしていた。)
だから、私だけ両方やっていた。
どちらもスキルもクオリティも低い。
でも、会社の上層部にいる人たちは、専門的な知識が一切ないから、両方できるというだけで私を評価してくれた。ボーナスが同期よりも高かった。
普通、評価されたら嬉しいはずだ、ボーナスが多かったら嬉しいはずだ。
でも、私は怖くなった。
いつ、本当はできないことがばれるのか。
もう、ばれないために休日を潰して勉強する気力も体力も残っていない。
これからは、実力を上回る仕事がきて、それに飲み込まれていく一方だ。
不安と、疲労、全く日光に浴びない生活、不規則な食生活。
(生活習慣は仕事だけのせいじゃなくて、私自身の慢心もあるが、それを正す気力さえ、もうない。)
生理前諸症状が酷くなって、婦人科に通った。ピルを貰った。生理前でもずっと子宮が痛くなるようになった。
精神科に行った。抗鬱剤が出された。副作用がひどい。
webサイトを作るのが好きだと言って、webデザイナーにしてもらって、挙句の果てに自爆している自分が情けなかった。
頼まれてもいないのに、勝手に背負い込んで、心と身体を壊して、いったい私は何がしたかったのだろう。
就活シーズンだから、街にはお葬式に行くみたいな顔をしたリクルートスーツの男女がたくさんいる。
好きなことを仕事にしたいって人は多いと思う。
そういう人はまず本当にそれ好きなの?仕事にする意味あるの?趣味じゃダメなの?って自分に聞いてみてほしい。
あと、その仕事が激務なら、それを耐えれる体力あるかも聞いてほしい。
身体が資本。
特に女の子。無駄に学歴とプライドのある子は一般職なんて…って思い勝ちだ。
でも、ちゃんと考えてほしい。
男並みに働く体力があるか。
好きは魔法じゃないから。
私は好きなことを(好きだと思っていたことを)仕事にして、三年経って辞めようとしている。
それでも好きなことを仕事にしたい、しても大丈夫、どっちかわかんないけどとりあえず挑戦するだけしてみたい、そういう人はやってみていいと思う。
(ここまで書いておいてこんなこと言うのも変だけど、私は好きなことを仕事にすることを否定しているわけじゃない。ただ、本当にできる?って言いたいだけ。自分ができなかったから。)
人間ってやってみないとわかんない生き物だから。
頭で考えるより実際やってみた方が絶対いい。そうしなきゃいつまで経っても納得しないで、何者かになれる気でいちゃうから。
でも、心か身体、どちらかを壊す前に、無理だと思ったら逃げた方がいい。
他人の目とか気にしなくていい。
他人のために生きてるんじゃないんだから、逃げたっていい。
逃げた先に何があるかはわかんない。
これから逃げるから。
逃げるって言葉なんか嫌だなーって思ってるし、なんかもっとポジティブな表現できないかなって思ってるけど、今のところ思いつかない。
次選ぶしごとは、自分のできる範囲の、無理しないで、長く生きれるしごとにしよう。それをダサいとか、真剣に生きていないっていう自分がまだどこかにいるけれど、そういう自分ともなんかこうやって書くことで折り合いつけていければいいと思っている。